あけまして
新年おめでとうございます
みなさんは2013年元旦、
どのような意気込みを持って迎えられましたか?
とにかく私はいつもの神社へと
初詣に行って参りました。
入り口に着いて見上げると
普段は真っ暗な夜の階段に照らす灯り。
まるで、参拝者を夜空へと誘うかのように
星の欠片たちが列を成す。
この山には狐や狸が常駐していて、
一人暮らしのおばあさんの民家に押し入っては、
お膳の上の食べ物を平らげてしまう。
ペットの小動物を獲って帰るという噂もこの町にはある。
私の家には犬がいるが、
野良猫が家に生ゴミを漁りに来ると
軍用犬のような俊敏さで玄関をぶち開け、
いかんなく犬の声帯の力を発揮するが、
野良猫ではなく狐や狸と分かると、何かの間違いだと態度で示す。
その事実は、温室育ちの我が家の犬とて
動物的直感から得られる潜在的恐怖の啓示として
我々は肝に銘じておかなければならない。
そんなことを考えていると 「こんばんは」
若いおなごの声がした。私も 「こんばんは」
それから何が続くのでもない。
この土地では、住人同士の挨拶は欠かせない。
年下の者が先に挨拶をして
年上の者はコンマ数秒の速さで挨拶を返す。
相手が年下といえど、自尊心を傷つけてはならないからだ。
この一連の動作を見事にこなせる人間は
やはり、この土地で生まれ育った者だけだった。
だが、私はそういう仕来たりに反旗を翻したいと
常に思ってはいたのであった。
とにかく、神社へと向かう。
2013年午前0時。
となりまちで花火があがる。
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
「こちらこそ」
彼女と交わした新年最初のご挨拶。
どんな一年になるのかな。
私も予定を立て行動したいと思う。
見慣れた境内も
ライトアップされると雰囲気は違う。
道すがら、人だかりから火の粉が舞い上がる。
しばし見惚れた。
人は少ないだろう。
予想していた通り午前0時の時点で
参拝客は私を入れて四人だった。
「これからやって来るのよ」
「田舎だからほとんど来ないって」
来ても10人に満たないだろうと思った。
この神社には、数百回とお参りに来てはいるが
初詣に来るのは初めてだった。
開けた境内を見るのも初めて。
中では数人の神主と一人の巫女が儀式をしている。
しばらく眺めていつものコースへとお参りをする。
一周して戻ってくると、儀式も終わり参拝客は急増中。
写真には写っていないが、30人くらいいたかもしれない。
やはり年配の人が多く、家族連れも多かった。
目が合えば当然挨拶を要求される。
挨拶をするために来ている老人もいるかもしれない。
私は何も無い辺りを物珍しそうに見渡しながら境内を抜ける。
石段からやって来た人はほとんどいない様子。
灯りのともる駐車場には多くの車が停車していたが
後部座席からおじいさんの視線を感じた私は
人ごみから逃げ出し闇夜に走った。
石段を下り中ほどで一人の男性が前方に見えた。
相手は私を見ているだろうか。
私は相手を見るべきだろうか。
暗闇の階段で、盲目のチラ見は繰り返される。
すれ違う人全てに挨拶をしなければならないこの土地で、
私は男が目を伏せてくれることを望んだ。
あと、六歩、あと、四歩、三歩、二歩、一歩。
すれ違う瞬間、男と私の目が合った。
「こんばんは」「こんばんは」
それは、この土地に育った者達に浸み込む
決して消えない条件反射。
今でも都会の街を歩くとき、
すれ違う老人に会釈をしてしまうのはこのせいなのだ。
当然、都会の老人には無視されるのだが。
ま、そんなことより
今年も一年、元気に楽しい日々を送れるよう
みなさん、良きお正月をお過ごしください。